第10回 ライフアップ通信 7月号  <記事抜粋>


「介護離職防止のために」 雇用保険制度の活用編  理事長 岡本直子

 

日本の少子・高齢化に拍車がかかるなか、国の対策のひとつとして「育児・介護休業法」があります。その中でも、介護休業に関する法律が1995年に施行されてから20年以上が経過しました。20171月には、大幅な法律の改正がなされましたが、実際に企業に勤める会社員にとっては、育児休業に比べても介護休業を取得する人は少なく、周知もなされていないように感じます。家族の介護による「介護離職者」は1年間で10万人、そのうち女性が8割といわれており、家族を介護していることを上司や同僚に相談することなく、結果的に介護を理由に退職していく従業員が多いというのが現実です。高齢化が加速している現在、企業は「介護離職者」を出さないための取り組みが必要不可欠となっています。

企業が加入している「雇用保険制度」では、介護休業を取得し、その間、賃金が支払われない雇用保険の被保険者に対して、「介護休業給付金」が支給されます。20161231日までは介護を必要とする対象家族1人につき、通算93日まで「原則1回」に限り取得可能であり、その期間賃金をもらっていなければ介護休業給付金が支給されていました。201711日より、法律の改正で通算93日は1回限りではなく「3回を上限」に分割して取得することができるようになりました。

では、家族の介護をする立場で考えてみた場合、連続して取得するにせよ分割するにせよ、「93日間」で介護が終了するものなのでしょうか?現実には、介護は中長期に行われることがほとんどで、93日(約3ヶ月)という短期間で終了することはほとんどないと思われます。法律では、介護休業とは「労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業」と定義されています。しかし、実際には、要介護状態にある家族の面倒を見るための休業というよりも、施設に入居させるための手続き、訪問介護の利用、介護保険の利用のため行政や施設への手続きのため、休業を使うことが多いのです。

例えば、一人暮らしの地方に住むお母様が、息子さんは数年前から東京の大学に進学、そのまま東京で就職し、東京で結婚をして住居も購入して住み続けていて、ずっと一人暮らしを余儀なくされるということもあるでしょう。このように、遠く離れて住んでいるお母様が病気になり、介護が必要となった場合、当然ながら東京に住む息子さんは行政への手続き等のため、泊りがけで数日間、実家のある地方へ帰らざるを得ませんし、手続きを済ませたからといって今日、明日にもすぐ施設に入居ができるわけでもありません。手続き終了後1ヶ月近く経った頃にやっと施設が利用できるということもありますから、その間の家族の介護のために、3回分割が可能になった介護休業制度を上手に利用していただくことも、事業主や担当者は、従業員にしっかり説明をし、話し合う必要があります。

先に述べた通り、そもそも家族の介護を会社に自ら申し出ない限り、介護休業制度を利用することもできませんし、当然ながら、介護休業給付金を受け取ることもできません。従業員の皆さんが、介護休業を申し出がしやすいように、相談窓口や担当者の設置と周知を徹底し、職場環境を整えていく努力が企業の事業主に求められているのではないでしょうか。介護離職予防のひとつとして、会社は従業員が気軽に相談できるように環境を整備し、介護休業給付金を上手に活用すること、従業員も退職を考える前に制度や相談窓口を活用することを考えてみましょう。

 

次回、今年改正になった介護休業法と、「介護休業」と「介護休暇」の制度の違いや短時間勤務の利用について解説しながら「介護離職者」の防止についてお話させていただきたいと思います。