第8回 ライフアップ・通信 3月号


<通信記事より抜粋>

 

「家族信託と任意後見について」               理事 田中正彦

 

私は、現在まで、不動産鑑定士として不動産にまつわる相続をはじめ 財産管理の問題など多岐にわたる案件のご相談を受けてまいりました。金融機関勤務を経て、特に信託関連業務の経験から、個人(家族)信託の組成のお手伝いに強い関心を抱いております。家族信託については、昨年3月と9月のライフアップ通信で2度ご紹介させていただいていますが、今回は 第3回の家族信託のご紹介としまして「任意後見制度との相違点」も考えながら お話させていただきたいと思います。

 

任意後見は、ご自分で 将来 意思表示能力(判断能力)を喪失した際に備えて、あらかじめ 本人の意思で 代理人(任意後見人)を選んでおく制度です。家族や信頼できる他人を指定することが可能なため、法定後見に比べ、より安心なシステムとして取り扱われることが多いようです。但し、法定後見と同様に任意後見は、「財産保全、法律行為の代理、身上監護」などの権限を有し、認知症対策の一環として重視される制度ではありますが、あくまでも、本人(被後見人)のためにしか財産を使うことができないという大きな制約に阻まれ、本人を取り巻く家族全体の安心のために財産を使用できるものではありません。財産は、裁判所等の監督下に置かれ社会的に監視されながらのやや窮屈な財産管理となるため認知症対策の一環としての任意後見制度も爆発的な利用には至っておりません。また、本人死亡後は、後見人の地位を喪失することとなり、本人に帰属する財産を本人死亡後まで管理・承継することはできません。一方、家族信託の場合、ご本人が元気なうちに信頼できる家族に 財産管理を委託し、信託契約書に財産の管理・運用・処分等の詳細を記載しておけば、受託者が信託財産をご本人とご家族の安心のために有効に使用することが可能になります。

例えば、ご本人が 判断能力を失っても、本人の生活費やホームへの入居費用等に充てたり、本人をリフレッシュ家族旅行に連れ出したりと広汎な財産の使用ができます。また、本人死亡後は、受益者(信託の利益を受ける人)を連続して設定しておけば、名義変更等の相続手続きを経ずに引き続き、財産管理者である受託者が信託終了まで財産の管理ができます。ただ、任意後見等の成年後見では、ご本人が入院したり介護施設に入所したりする際の手続きを行うという身上監護権がありますが、家族信託の受託者には、一般的にはそれがないと言われています。

財産管理と身上監護がそろって、はじめて完璧な備えとなりますことを考えれば、両者を併用することが最良の方法といえるかもしれません。しかし、仲の良いご家族の場合、身上監護に関しては、家族間で話合い協力してことにあたれば、さほどの難しい問題は起こらないでしょう。まずは、融通の利く財産管理を優先するべきであり、こういった意味からいえば 家族信託は、信託契約の時点で資産の管理や運用状況を被相続人が見届けることができますし、家族愛を優先して管理が可能となるほか、相続後の資産承継をロングタームに設計できるそういったメリットがあります。そのため相続前のご家族にとっても、非常に有効なものとなり得るものといえます。この制度は、今後、認知症対策だけでなく、親亡き後の障害者のための財産管理方法としてもますます利用価値が上がっていくことでしょう。 

 

                                           以上